錐に火矢、そして螺旋へ~形意拳の基本、五行拳の3つについて紹介します
創造と工夫、心に明かりを
———-
さて、
中年会社員武術家JunoIwamiが練習している形意拳(けいいけん)には
五行拳(ごぎょうけん)という基本となる5つの突き方があります。
以前の記事は五行拳の始めの2つである「劈拳(へきけん)」と「崩拳(ぽんけん)」を紹介しました。
今回は残りの3つの紹介です。いずれも劣らぬ威力と使い勝手の良さを発揮してくれます。
(連番は1を劈拳、2を崩拳でつけましたので3から始めます)
●3.「鑚拳」(さんけん)~錐のように突きあげる
●4.「炮拳」(ぱおけん)~突出する火矢の如く
●5.「横拳」(おうけん)~螺旋を使い半月を描く
五行拳がこれで出揃いました。
目次
<<五行拳で得られるもの>>
5つの突き方におけるそれぞれの力の出し方や軌道などを中心として説明していますが、もう少し煮詰めて考えますと5種類の「体の使い方」と言えます。
これらを使って、様々な状況を最小限の動きで対応しようというのが形意拳であり、基本となる五行拳です。
●3.「鑚拳」~錐のように突きあげる
五行拳の三番目に習う形です。「鑽」とも書きます。
「鑚(さん)」という言葉は単独ではあまり馴染みがありませんね。
物事を深く研究する「研鑚(または「研鑽」)」という単語として見かけます。
私としては余計なものをそぎ取るというイメージがあったのですが、どうやら本来は錐の様にもみこむという意味があるようです。
五行説(木・火・土・金・水)では「水」を当てています(「水行鑚拳」)。
そのため五行説通りの練習順序なら劈拳(金)の次に鑚拳(水)となるはずですが、なぜか劈拳→崩拳→鑚拳になります。
動きとしては劈拳と同じ上下動ですが、劈拳とは逆に下から上に突き上げる動作に特徴があります。
突き終わりの最後の瞬間に拳を捻り込むので確かに錐の様になります。
始めのうちは不自然なアッパーカットになってしまい、先生によく直されていました。
劈拳より動作が単純な分、練習がしやすいので初期の頃には一番練習していました。
●4.「炮拳」~突出する火矢の如く
五行拳の四番目に習う形です。
「炮(パオ)」という言葉は・・・それこそ中華料理屋にでも行かないと見る機会がありませんね。
大砲など、火を使って弾丸を打ち出すものについて使う漢字のようです。
五行説(木・火・土・金・水)では文字通りに「火」を当てています(「火行炮拳」)。
動きとしては開合の動作で、左右に割り開くようにして突いていきます。
今まで閉じていたものが一気に開き、その勢いをもって強力な突きを打ち出す様は確かに大砲と言えます。
また、強引なだけでなく相手の力を受け流す使い方にも特徴があります。
●5.「横拳」~螺旋を使い半月を描く
五行拳の五番目、最後に習う形です。
「横(おう)」という言葉を「ああ、真横に打つのか」と思った方、私もです、同志よ。
しかし本来は全く違い、複数の力が作用します。
「螺旋(回転する力と前に進む力の集合体)」というとイメージがしやすいです。
この「横」という力の出し方は形意拳だけでなく、他の様々な拳法が重要視している使い方です。
「他はいらない」とまでは言いませんが、最重要として取り組む拳法があるのも事実です。
五行説(木・火・土・金・水)では「土」を当てています(「土行横拳」)。
やはり、地味な感じがしませんか?
動きとしては螺旋で軌道は半月を描きます。
説明だけ聞くと、こちらの方が上の「鑚拳」より錐っぽいというか「ドリル?」という気もしますが、
実際の動きをみると「ああ、やっぱり『横』だわ」となります。
遠くても近くても強力な打撃を相手に叩き込める、非常に使い勝手の良い打ち方です。
<<華美ではない美しさがそこにある>>
形意拳は華美では無いですが、そこには無駄をそぎ落とした静謐な美しさを感じずにはいられません。
先生たちの動きをみると、いつもそう思います。
ただ荒々しいだけでなく、ダンスのように見栄えを良くするのではなく「そこにある美しさ」が私の心をつかむのです。
———-
立ち止まっても倒れても、また人は歩き出す 岩見より